あ、1本いいっすか?

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up-date: Sun, 18, Mar.


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2010/09/27

カンナとカカシ(4)

投稿者 Chijun   9/27/2010 0 コメント
 女の子は泣きやんで、きょとんとした顔でじっとこちらを見つめている。
「お兄さんはほんとのほんとはお姉さんなの?」カカシよりも、ずっとおちついた声だった。
 女の子の顔は、カンナにそっくりだった。でも、カンナよりはずっと幼くて、そう、まるでカンナの時計をまきもどしたような顔だった。
……カンナ?」
 女の子は首をふった。「あたしはね、じぶんのお名前しらないの。『カンナ』ってお兄さんの好きなひと? すてきなお名前ね。きーめた、あたしもそれにする!」
……君は、どうして泣いて……
 カカシが言い終わるまえに、女の子はくびをかしげた。
「なんで『カンナ』ってよばないの?」
 カカシはなんだか恥ずかしい気がしたけれど、女の子がほんとうに不思議そうな顔をしているので、「カンナちゃんはどうしてあんなに泣いてたの?」と、あらためて聞きなおした。
「カンナね、お誕生日なのにひとりぼっちなの」



 十二歳の誕生日。



「そっか。じつはぼくも誕生日だったんだ。昨日だったかもしれないし、一昨日かもしれない。それはよくわからなくなっちゃったんだけどね」
「じゃあいっしょだね」
 元気にそういうと、ちいさなカンナはにっこり笑った。



 恥ずかしがり屋のカカシだけど、ちいさなカンナのまえではどんどん声が出てきた。
「あんまりさむかったから、足がつめたくてじんじんするし、あたまはぼうっとしちゃって――気がついたらここにいたんだ。ぴかぴかのかべにふたりでとじこめられて――それで、それでね、カンナの手はとても小さくて、ぼくの手はここのせいで冷たくなってしまって――そうそう、そこはでんき電灯もないのにずいぶん明るい部屋で――目がさめたらひとりぼっち――そしたらおじさんが現れて(いつから部屋にいたんだろう?)、おじさんはカンナのことを知っていた。おじさんのつぎはやさしいお兄さんで、でも電話なんだけど――おかげで最初の部屋を抜け出せたんだ」
 ききたいことはたくさんあった。ここはいったいどこなのか? カンナはどこへ行ってしまったのか? おじさんはだれ? おにいさんはだれ? ぼくは……ぼくは、いったいどうすればいい?
 が、あせっていっぺんに話しすぎたせいで、女の子の頭のなかではいろいろなことばがかけめぐり、からまってしまったようだ。それに、なにかたいせつなことを説明し忘れてしまった気もする。
……カカシはとってもさびしいんだね」
 それだけいうと女の子はまたうつむいてしまった。こどものあつかいはどうもむずかしい、そう思ったとき、カカシはすこしだけ大人になった気がしたんだ。
 カカシはちいさなカンナの頭にそっと手をおいて、ゆっくりとなでてあげた。それでもカンナは顔を上げようとしないので、こんきよく、ずっとずっと、カカシはなでつづけた。

2010/09/14

ことばで世界を描くことについて

投稿者 じん   9/14/2010 1 コメント
 ことばの話がしたくなりました。日本語で語られる物語の主人公と、英語で語られる物語の主人公の話です。

 でもその話をする前に、頭に入れておいて欲しいことがあります。それはことばは世界を描くための道具だということです。

 以前「つぶつぶ」というお話で書きましたが、世界とは、原子というつぶつぶをほとんどすきまなく敷き詰めたものです。そのつぶつぶをいくつか選んで、選んだつぶつぶに「ねこ」という名前を付けて呼ぶことにします。名前を付ける前はなんだかよく分からなかった世界が、「ねこ」とそれ以外に分かれて見えるようになります。これをキャンパスに描くとすれば、真ん中に「ねこ」がひとつ、他のところは真っ白のまま。「ねこ」とそれ以外の世界が生まれます。これがことばで世界を描くと言うことです。ちなみにこの世界は頭の中だけにある世界です。ちょうど夢みたいなものです。映画が好きな人は夢ではなく「MATRIX」と読んでもかまいません。物理学のような「科学」の世界が現実の世界だとすれば、目が覚めたときに自分も世界もただのつぶつぶになってしまいます。

「ねこ」だけではつまらないので、いろんなものに名前を付けます。「ひと」とか「りんご」とか。「ねこ」が他のつぶつぶをゆっくり押し分けていく様子を「あるく」、速く押し分けていく様子を「はしる」と名付けることも出来ます。

さて、話を進めて、これから私がしようとしている話の結論。私が考えるに、日本語の物語の主人公は、他人です。書き手は登場しません。読者は書き手の目を通して世界を眺めることになります。一方、英語の物語の主人公は書き手である「私」です。読者は物語には登場しない何者かの目を通して、主人公の生活を眺めます。

日本語と英語をこんな風に見てみることで、二つの言語の世界の描き方、その言語を使って考える人のものの考え方が見えてくるんじゃないかと思っています。

例えば、日本語が主観的、英語が論理的な言語だとえる理由。英文和訳で英語の"I"をいちいち「僕は」とか「私は」とか訳していると日本語っぽくも英語っぽくもない不思議な文章になる理由。

これから書こうとしているのは、大学の卒業論文で挑戦して撃沈した、日本語と英語の世界です。時枝誠記、鈴木孝夫、森有正、本多啓の書いた本と私の経験をごった煮にした世界です。負けっぱなしでは悔しいので、もうちょっとがんばってみることにします。

2010/09/09

ここは戦場?

投稿者 福田快活   9/09/2010 0 コメント
歩道に中年のおっちゃんが倒れている。うつぶせに、手が不自然に下腹部で折りたたまれて。ていうのも意識があれば倒れるときに手は反射的に地面をつかむよう胸のあたりで、そう腕立てをするように突き出されるもんなのに、チンコつかんでんのか?下腹部に下敷きに。首のした辺りからすこし黒い、赤い血が流れつづけてる。「池」ていってもいいくらい。排水溝めがけてる。

ここは新宿。

帰ってネットで調べても、なにも報道されてない。

2010/09/04

カンナとカカシ(3)

投稿者 Chijun   9/04/2010 0 コメント



 それからどれだけ時間がたったのか、カカシにはわからなかった。なんせ時計も太陽も、朝も夜もないのだから。部屋は変わらず光っているばかり。カカシはまた泣き出しそうになる。と、ポケットのなかでふるえるものがある。そうだ、ケータイだ。すっかり忘れていた。
 携帯電話をとりだすと、見たことのない番号からかかってきている。知らんぷりをきめこんでポケットにふたたびしまおうとしたとき、とつぜん電話がしゃべりだした。
「こちらこども電話相談室です。なにかお悩みごとですか? あせらずゆっくりしゃべってくださいね」
 これじゃあまるでカカシから電話したみたいだ。
「部屋から出られない? かしこまりました。ただいま電話を代わります」
 電話から、なつかしい音楽が聞こえてくる。タンタタタンタタタン、タタタタタタタ……毎日放課後に流れていた、そう、「パッヘルベルのカノン」だ。音楽の先生が教えてくれた。
「はじめまして。こまっているんだね」
 電話口から聞こえるのはやさしい男の人の声で、こんどはカカシもしぜんにたずねられた。
「カンナはどこ?」
「知らないおじさんに声をかけられてもついていかなかったんだね。えらい、よくできた。君はかしこいこどもだ。自分にもっと自信を持っていいんだよ。安心なさい、君はぼくらにまもられているんだから。こどもたちをまもるのが、ぼくら大人の仕事なんだ」
「カンナは……どこ?」カカシはもういちど部屋を見回すが、やはりだれもいない。
「かわいそうに。君は君のことを君だとおもいこんでしまっているようだが、かんちがいしてはいけない。今、スイッチをきりかえてあげるよ」
 かちっ、という音が受話器のむこうでしたかと思うと、カカシはとつぜんいなくなってしまった、というのも、自分のすがたが見えなくなってしまったんだ。
「ああ、ごめんごめん。まちがえて消しちゃったよ。こんどはだいじょうぶ。そらっ」
 かちっ。
 自分の手が見える。よかった、足も見える。でも……ここは? こんどカカシの目に入ったのは、ずっと続くながい廊下とかべにそってきれいに並ぶたくさんのドアだった。右を見ても左を見ても、同じ風景。廊下はゆるやかに曲がっていき、その先になにがあるのかは見通せない。どちらにすすむべきか、カカシは迷った。



 カカシは左を選んだ。



 歩いても歩いてもやっぱり廊下はゆるやかに曲がっていて、両側には同じドアがずうっとならんでいる。もしも廊下が完全な円をえがいているとしたら?
――そしたらどこまで行っても同じこと。どこか別の場所へ抜けるためには、……ドアを開けなければならない?
 カカシは壁しかない、最初の部屋を思い出した。もしまたとじこめられてしまったら……
――でも、ドアがついているということは、部屋の内側にもドアがついているということ。それなら部屋に入っても、もう一度ここにもどってくることができる。そんなのはあたりまえのこと。ふつうに考えればそうなる、けど……。でも、なかにはだれか人がいて、かってに開けたら怒られるかもしれない。それに、できれば知らない人にはあいたくない。



 それでもカンナにはあいたい。カンナはここにはいない。カンナのきれいな顔をもういちど見るためには、このままここにいてはだめだ。
 カカシは勇気をだしてノブに手をかける。
 ところが、鍵がかかっているのだろうか、ドアはちっともうごかない。「あれ?」 となりのドアも試してみる。ところがやっぱりうごかない。「あれ? あれ?」 カカシは次々に試していったけど、ドアはいっこうに開かない。こんこんとたたいてみても、廊下に響くのはノックの音だけ。やけになって次から次へドアにとびかかる。「なんでぼくだけいつもひとりぼっち……!!」
 無我夢中のうちに思わず開けてしまった最後のドアの奥で、ちいさな女の子が泣いていた。しゃがんでうつむいている、その顔をのぞくことはできそうにない。カカシはどうしていいかわからない。どうしていいかわからないけれど、とりあえず泣き止んでもらわなきゃならない。なにもできないでいるカカシをよそに、その泣き声はどんどん大きくなっていくのだ。こんなところだれかに見られたら、自分が女の子を泣かしているとかんちがいされてしまう。
……どうしたの? ……なにかあったの?」
 女の子はかたくなにうつむいていやいやをする。
 カカシはふとジェントルマンの話を思い出した。〈やれ、といったところで、こどもはなかなかそのとおりにしてはくれない。……自分よりも幼い女の子をまえにして、カカシはおじさんの気持ちが少しだけわかった気がした。なにかお話をしてあげなきゃ……
「ぼくはね、君のオニーサンじゃないよ。もちろんオネーサンでもない。しいていえば……オニーサンじゃなくてオネーサン? だって見た目だけで決めつけちゃだめじゃないか!!
 ちょっとみじかくなっちゃったし、なにかまちがっているような気もするけど、自分なりにくふうできた自信はあった。小さな子は、いっぺんにたくさん話しても理解できないだろうから。それに、最後はおおきな声ではっきりいえた。
 女の子は泣きやんで、きょとんとした顔でじっとこちらを見つめている。

 

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