女の子は泣きやんで、きょとんとした顔でじっとこちらを見つめている。
「お兄さんはほんとのほんとはお姉さんなの?」カカシよりも、ずっとおちついた声だった。
女の子の顔は、カンナにそっくりだった。でも、カンナよりはずっと幼くて、そう、まるでカンナの時計をまきもどしたような顔だった。
「……カンナ?」
女の子は首をふった。「あたしはね、じぶんのお名前しらないの。『カンナ』ってお兄さんの好きなひと? すてきなお名前ね。きーめた、あたしもそれにする!」
「……君は、どうして泣いて……」
カカシが言い終わるまえに、女の子はくびをかしげた。
「なんで『カンナ』ってよばないの?」
カカシはなんだか恥ずかしい気がしたけれど、女の子がほんとうに不思議そうな顔をしているので、「カンナちゃんはどうしてあんなに泣いてたの?」と、あらためて聞きなおした。
「カンナね、お誕生日なのにひとりぼっちなの」
十二歳の誕生日。
「そっか。じつはぼくも誕生日だったんだ。昨日だったかもしれないし、一昨日かもしれない。それはよくわからなくなっちゃったんだけどね」
「じゃあいっしょだね」
元気にそういうと、ちいさなカンナはにっこり笑った。
恥ずかしがり屋のカカシだけど、ちいさなカンナのまえではどんどん声が出てきた。
「あんまりさむかったから、足がつめたくてじんじんするし、あたまはぼうっとしちゃって――気がついたらここにいたんだ。ぴかぴかのかべにふたりでとじこめられて――それで、それでね、カンナの手はとても小さくて、ぼくの手はここのせいで冷たくなってしまって――そうそう、そこはでんき電灯もないのにずいぶん明るい部屋で――目がさめたらひとりぼっち――そしたらおじさんが現れて(いつから部屋にいたんだろう?)、おじさんはカンナのことを知っていた。おじさんのつぎはやさしいお兄さんで、でも電話なんだけど――おかげで最初の部屋を抜け出せたんだ」
ききたいことはたくさんあった。ここはいったいどこなのか? カンナはどこへ行ってしまったのか? おじさんはだれ? おにいさんはだれ? ぼくは……ぼくは、いったいどうすればいい?
が、あせっていっぺんに話しすぎたせいで、女の子の頭のなかではいろいろなことばがかけめぐり、からまってしまったようだ。それに、なにかたいせつなことを説明し忘れてしまった気もする。
「……カカシはとってもさびしいんだね」
それだけいうと女の子はまたうつむいてしまった。こどものあつかいはどうもむずかしい、そう思ったとき、カカシはすこしだけ大人になった気がしたんだ。
カカシはちいさなカンナの頭にそっと手をおいて、ゆっくりとなでてあげた。それでもカンナは顔を上げようとしないので、こんきよく、ずっとずっと、カカシはなでつづけた。