あ、1本いいっすか?

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2010/03/31

ブランコ

投稿者 じん   3/31/2010 0 コメント
 アルバイトへ向かう多摩都市モノレールが住宅街の上を通り過ぎていく。何の変哲もない、少しさびれた住宅街。その一角に、不思議な公園がある。家と家の間の空地のような空間。それでも看板が歩道に面して建っているので、一応名前のついた公園なのだろう。一面の芝生の真ん中に一台のブランコがある。
 公園のブランコと言えば、小さいものでも大抵横並びに二つは鎖でぶらさげられた板があって、友だち同士二人並んでぶらぶらやるものである。すれ違いざまに顔を見合わせたり、どこまで高く上がれるか競争したりする。そしてスウィングの勢いにまかせて飛び降りて、どこか別の面白いこと、砂場や滑り台、ジャングルジムへと駆け出していくものである。しかし、この公園のブランコにぶらさがっているのは一つだけ。

 そのブランコに、時折、一人の少女が揺れている。たった一人、一人用ブランコがあるだけの公園に、いつも同じ、小学校四年生ぐらいの女の子が、立ったまま、勢いよくブランコをこいでいる。

 寂しそうに座ってこいでいてくれたほうが良かった。そうすれば、何か悲しいことがあったのだろうか、もしかすると、学校でいじめられているのかもしれない、と心配することができる。座ってこいだブランコが大きく揺れることはないから、もしかしたらそこにブランコがあることに気づかず、ただの空き地と気にも留めずに通り過ぎてしまったかもしれない。彼女が元気に大きくブランコを飛ばしているから、僕はいつも彼女を見つけ、そして困惑してしまう。どうしていつも一人なのか。どうしていつも勢いよくブランコをこいでいるのか。どうして大好きな犬のぺロちゃんや、お友達のじゅんくんと駆け回っていないのか。どうしていつも晴れた芝生が緑色に輝いているのか。
 彼女はいつもブランコに乗っている。けれど、いつも彼女が公園にいるとは限らない。彼女がいなくても、公園はいつもそこにあるから、その公園は彼女が現れるときだけそこにある、異世界的公園なのではないかと心配したり、興奮したりする必要はない。それは何の変哲もない住宅街にある、ちょっとだけ不思議なただの公園である。僕はいつもその公園をモノレールの窓から見ている。
 公園の名前を確かめにモノレールを降りたことは、まだない。
 

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