あ、1本いいっすか?

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2011/06/04

カンナとカカシ(13)

投稿者 Chijun   6/04/2011 0 コメント
三ツ頚がてんでばらばらにしゃべりだしてね、いっぺんにその場はにぎやかになった。眼をまるくしているこどもをおいてけぼりにして、なまいきそうな右の頚、あおざめたまんなかの頚、まのぬけた左の頚がかってにしゃべりつづけている。

「一度ならず二度までも……」
「僕ら奇形に生まれ出ずる悩み……」
「はなみじがはなみじが、ふがふが」

「こどもというのはまったく残酷、われわれのきもちわるさを大人ほどに理解せず、いともたやすく触れてくる……」
「しかし、待てよ。奇形にも二種類あって、その意味で僕たちは持たざる者ではなく、むしろ多くを持つ者といえる……」
「ティッシュちょうだいティッシュ!」

「カメといえば、ユートピアへのきちょうな導き手じゃないか?」
「世界のうちで僕たちほど歩みの遅い者はない。なるほど。世界……」
「ああ! こぼれちゃった」

三ツ頚のおしゃべりはいつまでも終わりそうにない。そのすきにそっとこの場を逃げ去ろうと、カカシはうしろを振り返った。するとさっきまで座っていたベンチに二人組のおばあさんがこしかけていて、こっちを見ながらなにやら話しあってるじゃないか。

「まここったったっ」「だゃだゃーまったがけえってみっくけなあて」「そんなたらしぃこてぃったって」「でゅうむらりい……」

ふたりともずいぶんせっかちなしゃべり方で、あいてが話しおわるのをまちもしない。カカシには、なにをいってるのかさっぱりわからないほどだ。
おまけに左側のおばあさんはひどいだみ声で、右側のおばあさんは、使いすぎてしまったせいだろうか、片方のまぶたがめくれあがって、もどらなくなってしまっている。これはずいぶんおそろしいおばあさんたちだ。ところがその顔は、どこかで見た気がする……



いがみあっているだけにも見えたふたりはどうやらなにか結論がでたようで、うなずきあうとそろってぱんと手を鳴らし、カカシにむかってずんずん進んできた。立ってみると、ふたりともカカシの半分ほどしか背丈がない。
ダッタタ、ダッタタ、ダッタタ。
片足を引きずりながら、おばあさんたちがせまってくる。
うしろではあいかわらずカメたちがぎゃあぎゃあやっている。
もういちど前を見ると、おばあさんの顔がすぐそこに。めくれてしまったまぶたのしたの眼球が、乾ききって死んでいる。

こんなところ、楽園なんかじゃないや。眼が覚めるとみにくいものにかこまれて、そうしてみると、刈りそろえられた芝生もとつぜん人工的に見えてきて、深い青の海原もたんにちっぽけな池にすぎなくて、カップルがボートをうかばせているだけの、どこにでもある公園のいつものつまらない風景にしかおもえない。

ああ、これで終わりなんだ。ありがちな童話みたいに、わるいおばあさんに食べられて。



カカシにぴったりくっつくまでに身を寄せてきたおかしな眼のおばあさんが、カカシの手をぎゅっと握る。
するとカカシの手のなかに、携帯電話がもどってきていた。

ーーケータイを持っていってしまったのがアヤタンで、もひとりの優しいほうがミカチンで。ああ、そうかそうか。おばあさんたちの顔はすっかり崩れてしまっている。けれど、それでもどこかあのかわいらしい女子高生たちの廃墟をのこしていて、ーーそう、まるで、ふたりの時計をすすめてしまったような姿だ。

ふたりはそろってカカシの手を取ると、おおきく口を裂き、にっこりわらった。ぽっかりあいた穴には歯が一本もなくて、ひどいにおいがたちこめている。おもわずカカシが眼をそむけようとすると、ふたりはカカシをカメのいるほうへやさしく導いた。
ーーわかってるさ、といわんばかりに、カメはこちらを見てにやにやわらっている。

 

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