あ、1本いいっすか?

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2011/01/03

カンナとカカシ(8)

投稿者 Chijun   1/03/2011 0 コメント
もうひとりがつづけていう。「ケータイだけじゃないわ。なんだってそう。みーんなみーんな小さくしちゃったの。ここにあるドアだっておなじよ。どんどんどんどん小さくして、見えないくらいに小さくして、だからいま見ているのは、かべに映った『めじるし』にすぎないの。ほんとはもういらないものなのに、目に見えなきゃわからないなんて、わたしたちっておバカさんね」
「そうして最後に残ったのは、自分のからだだけ、ってね。まわりのものがどんなに小さくなっても、自分のからだが百五十センチ以上もあったんじゃ意味ないじゃーん」
「こら、アヤタンたら。こんなにかわいい男の子をからかっちゃだめよ」
今しゃべったのがミカチンで、怒られちゃったのがアヤタン。カカシはだいじなことを忘れてしまわないようにいっしょうけんめい覚えようとしたけれど、姿も声もそっくりなので、いまにもわからなくなってしまいそうだ。
「ここに来たばかりでまだなにもわからないかもしれないけど……いい? ここは君のためだけの世界なんだ」



全部で何回かは忘れてしまったけれど、ふたりといっしょになってからは十二回エレベーターにのった。ここにはすべてがある……そういわれてみても、みんなおなじものばかりで、カカシはすっかりあきてしまった。だいじな用事……そう、ちいさなカンナに会ったのも、ずいぶんむかしのことのように思える。プレゼントのことも、うっかりすると忘れてしまいそうだ。たとえ時間がたっぷりあるとしても、おなじことのくりかえしばかりじゃ、なにもしてないのとおなじことになってしまいそうだ。
ところが十三回目のエレベーターを降りたとき、カカシはなにかがおかしい感じがした。なにがおかしいのかはわからない、でも、なにかがすこしだけちがうような気がする。足もとで気難しそうにしわをよせているこどものことには気づかず、女子高生たちはすたすた目的地へむかって進む。……やっぱりなにかがおかしい。おしゃべりな二人組がもうずっとだまったままだから? いやいや、そんなことじゃないはずだ。
そのうちカカシはなんだかおちんちんのあたりがもぞもぞしてきてね。そういえば、ここにきてからまだ一度もおトイレにいってない、ってことに気づいたんだ。
「ミカチーン。あたしおしっこしたくなっちゃった」たすかった、カカシは思った。「ちょっと待ってて」
そう言い残すと、アヤタンはたくさんあるドアのひとつのむこうがわに、すっと消えてしまった。
「……ひょっとして君もしたいんじゃない? いまのうちにすませておくといいよ。あたしは……ごめんね。女の子だからいっしょに入ってあげられない。だいじょうぶ、ちゃんとここでまっててあげるから」
 

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