壁に空いた穴の向こう側から、すぐそばに座った客を見つめている垂れ目の《顔》。いやらしさはない。優しげな、どこか悲しそうな目で、そっと見守っているようですらある。視線の先の男は、自分が見られていることには気が付いていないようだ。
ここはファーストフード店の喫煙室で、仕事を終えて疲れたサラリーマン、友人の悩みを大げさに同情しながら聞く中年女性、げらげらとはしゃぐ学生たちが、同じ空間にいながら、違う世界、違う時間を過ごしている。やがて手元のコーヒーやコーラ、フライドポテトなんかがなくなり、最後の一服を終えれば、またそれぞれの場所に帰っていくのだろう。そんななか、《顔》はずっと、同じ場所で、いつも同じ一つの席を、見続けている。その席に座った客のうち、いったい何人が《顔》に気がつくだろうか。今座っている男のように、視線にすら気がつかないのがほとんどだろう。それでも《顔》は見守っている。
男がタバコの火を消した。さっきより少し表情が和らいで見えるのは、コーヒーとタバコのせいだけではないかもしれない。
ここはファーストフード店の喫煙室で、仕事を終えて疲れたサラリーマン、友人の悩みを大げさに同情しながら聞く中年女性、げらげらとはしゃぐ学生たちが、同じ空間にいながら、違う世界、違う時間を過ごしている。やがて手元のコーヒーやコーラ、フライドポテトなんかがなくなり、最後の一服を終えれば、またそれぞれの場所に帰っていくのだろう。そんななか、《顔》はずっと、同じ場所で、いつも同じ一つの席を、見続けている。その席に座った客のうち、いったい何人が《顔》に気がつくだろうか。今座っている男のように、視線にすら気がつかないのがほとんどだろう。それでも《顔》は見守っている。
男がタバコの火を消した。さっきより少し表情が和らいで見えるのは、コーヒーとタバコのせいだけではないかもしれない。