あ、1本いいっすか?

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2010/01/26

《顔》

投稿者 じん   1/26/2010 0 コメント
 壁に空いた穴の向こう側から、すぐそばに座った客を見つめている垂れ目の《顔》。いやらしさはない。優しげな、どこか悲しそうな目で、そっと見守っているようですらある。視線の先の男は、自分が見られていることには気が付いていないようだ。
 ここはファーストフード店の喫煙室で、仕事を終えて疲れたサラリーマン、友人の悩みを大げさに同情しながら聞く中年女性、げらげらとはしゃぐ学生たちが、同じ空間にいながら、違う世界、違う時間を過ごしている。やがて手元のコーヒーやコーラ、フライドポテトなんかがなくなり、最後の一服を終えれば、またそれぞれの場所に帰っていくのだろう。そんななか、《顔》はずっと、同じ場所で、いつも同じ一つの席を、見続けている。その席に座った客のうち、いったい何人が《顔》に気がつくだろうか。今座っている男のように、視線にすら気がつかないのがほとんどだろう。それでも《顔》は見守っている。
 男がタバコの火を消した。さっきより少し表情が和らいで見えるのは、コーヒーとタバコのせいだけではないかもしれない。



 

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