あ、1本いいっすか?

Next Writer:Chijun

up-date: Sun, 18, Mar.


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2011/06/22

機能している道具は見えないらしい

投稿者 じん   6/22/2011 0 コメント
非常に個人的な話だが、25歳にしてはじめて実家を出て独り暮らしをすることになった。これまでものを捨てられず、手元にものが溢れていくタイプだったので、この機会に自分にとって最低限必要なものだけをもって、自分的ミニマルライフを始めたいと思っている。

30Lザック、仕事用のポーターの斜めがけ、両手にキャリー。旅なれない旅行者の長期旅行のようないでたちで、でも心はいざシンプルライフへ!と思って2日目。どれだけ多くのものが、意識されないほどに生活にとけこんでいたのかに驚いている。

トイレに入れば紙がない、タオルがない、風呂に入れば洗面器がない。食パンを焼けば皿がない、バターナイフがない。いつもの寝巻きがない。足りないものは必要になったら買おうとは思っていたものの、実際に使用した場面になるまで意識していないものが、こんなにあるとは!

実家を出たかった理由のひとつは、当たり前にあることのありがたさを知りたかったからだった。この先の、やば!あれないじゃん!が、少しだけ楽しみでもある。

2011/06/18

赤いツァーリ

投稿者 福田快活   6/18/2011 0 コメント
エドワード・ラジンスキー『赤いツァーリ』を読む。ロシア史を知ってないとわかりにくい部分はあるけど、おれはところどころ「なんでいきなりこんな展開なってんだ!?」って取り残されたけど、スターリンの悲しみというか孤独が身体中に広がる。スターリンは「頭のいい岡田以蔵」だった。汚れ仕事、表に公表できない仕事のスペシャリストとして頭角を表していく。リーダーに見捨てられる。そのあとが道の分かれ目。どっちがよかったんか、ちうかスターリンに殺されまくった人間からすれば、覚醒せずに埋もれてたらよかったやろうけど。あ、トロツキーはイヤミなインテリってことがわかったwww

2011/06/04

カンナとカカシ(13)

投稿者 Chijun   6/04/2011 0 コメント
三ツ頚がてんでばらばらにしゃべりだしてね、いっぺんにその場はにぎやかになった。眼をまるくしているこどもをおいてけぼりにして、なまいきそうな右の頚、あおざめたまんなかの頚、まのぬけた左の頚がかってにしゃべりつづけている。

「一度ならず二度までも……」
「僕ら奇形に生まれ出ずる悩み……」
「はなみじがはなみじが、ふがふが」

「こどもというのはまったく残酷、われわれのきもちわるさを大人ほどに理解せず、いともたやすく触れてくる……」
「しかし、待てよ。奇形にも二種類あって、その意味で僕たちは持たざる者ではなく、むしろ多くを持つ者といえる……」
「ティッシュちょうだいティッシュ!」

「カメといえば、ユートピアへのきちょうな導き手じゃないか?」
「世界のうちで僕たちほど歩みの遅い者はない。なるほど。世界……」
「ああ! こぼれちゃった」

三ツ頚のおしゃべりはいつまでも終わりそうにない。そのすきにそっとこの場を逃げ去ろうと、カカシはうしろを振り返った。するとさっきまで座っていたベンチに二人組のおばあさんがこしかけていて、こっちを見ながらなにやら話しあってるじゃないか。

「まここったったっ」「だゃだゃーまったがけえってみっくけなあて」「そんなたらしぃこてぃったって」「でゅうむらりい……」

ふたりともずいぶんせっかちなしゃべり方で、あいてが話しおわるのをまちもしない。カカシには、なにをいってるのかさっぱりわからないほどだ。
おまけに左側のおばあさんはひどいだみ声で、右側のおばあさんは、使いすぎてしまったせいだろうか、片方のまぶたがめくれあがって、もどらなくなってしまっている。これはずいぶんおそろしいおばあさんたちだ。ところがその顔は、どこかで見た気がする……



いがみあっているだけにも見えたふたりはどうやらなにか結論がでたようで、うなずきあうとそろってぱんと手を鳴らし、カカシにむかってずんずん進んできた。立ってみると、ふたりともカカシの半分ほどしか背丈がない。
ダッタタ、ダッタタ、ダッタタ。
片足を引きずりながら、おばあさんたちがせまってくる。
うしろではあいかわらずカメたちがぎゃあぎゃあやっている。
もういちど前を見ると、おばあさんの顔がすぐそこに。めくれてしまったまぶたのしたの眼球が、乾ききって死んでいる。

こんなところ、楽園なんかじゃないや。眼が覚めるとみにくいものにかこまれて、そうしてみると、刈りそろえられた芝生もとつぜん人工的に見えてきて、深い青の海原もたんにちっぽけな池にすぎなくて、カップルがボートをうかばせているだけの、どこにでもある公園のいつものつまらない風景にしかおもえない。

ああ、これで終わりなんだ。ありがちな童話みたいに、わるいおばあさんに食べられて。



カカシにぴったりくっつくまでに身を寄せてきたおかしな眼のおばあさんが、カカシの手をぎゅっと握る。
するとカカシの手のなかに、携帯電話がもどってきていた。

ーーケータイを持っていってしまったのがアヤタンで、もひとりの優しいほうがミカチンで。ああ、そうかそうか。おばあさんたちの顔はすっかり崩れてしまっている。けれど、それでもどこかあのかわいらしい女子高生たちの廃墟をのこしていて、ーーそう、まるで、ふたりの時計をすすめてしまったような姿だ。

ふたりはそろってカカシの手を取ると、おおきく口を裂き、にっこりわらった。ぽっかりあいた穴には歯が一本もなくて、ひどいにおいがたちこめている。おもわずカカシが眼をそむけようとすると、ふたりはカカシをカメのいるほうへやさしく導いた。
ーーわかってるさ、といわんばかりに、カメはこちらを見てにやにやわらっている。

 

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