あ、1本いいっすか?

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2011/08/11

カンナとカカシ(15)

投稿者 Chijun   8/11/2011 0 コメント
ジェントルマンは一行の前に進み出ると、「みなさん、本日は勇敢なる男の子のためにお集まりいただきましてまことにありがとうございます! 幾多の苦難を乗り越え、彼はついにここにたどりつくことができました。わたしは(と、ここで一息ためて)きよらかなる愛というものに関心を持つ者です。彼をここまで導いたのは、彼が思いを寄せる美しい女の子の、かけがえのない願いから出た、たったひとことの言葉でした。彼は年齢以上にはにかみ屋の、自分からは何もできない男の子でした。しかしそれも昔のこと。女の子の願いが、彼をして大人への階段の第一歩を踏み出さしめたのであります! 彼をここまでーーというのは場所としてのここのみならず、彼の成長点としてのここという意味においてもですーーここまで導いたのは、小さな女の子の小さな願いでした。しかし我々大人が、それをちっぽけなこどもの戯れに過ぎないと片づけてしまってもよいものでしょうか? 断じて! 断じて! 我々大人こそ、小さな子どもたちの純粋な行為から、純粋な愛から、学ばねばならぬものは少なくな……」

と、そこまできたところでとつぜん、聖らかな鐘の音がいっぱいになりひびき、ジェントルマンは固まってしまった。まわりを見ると、ジェントルマンだけじゃない、まるで時計の針を止めてしまったかのように、みんな固まったままうごきをとめてしまったんだ。

カカシが振り向くと、遊園地はすっかり消えていてね。代わりにそこには大きな、てっぺんが見えないほどの大きな樹がそびえたっていて、その根元に花々に囲まれたひとりの女の子がーー正真正銘のカンナが、眼を閉じて横たわっていた。
いつまでも鳴り止まず、上の方から楽園にふりそそぐ鐘のなか、カカシは一歩一歩ちかづき、カンナに手を触れようとしたところで、一枚の透明な、よっぽど近づかなければ分からないほど透明なガラスのような壁が、ふたりをへだてているのに気がついた。
カカシが試しにトントン、と透明な壁をつついてみると、
「このままじゃきみは」と、ガラスに文字が表示されだしたんだ、「だれにもであえない」
そこまででいったん消えたあと、また順番に一文字ずつ、「であったとしてもそれはみな、きみがつくりだしたまぼろしにすぎない。いまのままじゃきみはかんなにであえない」

「きみはきみがおかしたつみのほんとうのいみをりかいするまで、なんどでもくりかえさなければならない」

いつしか鐘の音もなりやみ、カカシの目の前のガラスはそれまで映像をうつしていたにすぎないとでもいう風にとつぜんまっくろになってしまった。大きな樹も、そのしたで眠るカンナも、カンナをかこむ花々もーーすべて消え、ふたたび文字が語りかけてくる。

ーーほんとうに強制人格交換プログラムを起動してもよろしいですか?




Yes or No ?



カカシがなにも押さないうちに、画面はふたたびまっくろになった。



それに合わせて、カカシの視界もまっくろになった。視界だけじゃない。あたまのなかみも、すべてーー








「にんげんのかなしみのそこがみてみたい」
少女はそういうと、少年の右手にピストルをのせた。女の子の名前はカンナ、男の子の名前はカカシといった。
カカシはカンナのことが大好きだった。「ぼくはカンナに選ばれたとくべつなこどもなんだ」いつも自分にそういいきかせていた。「ぼくは……ぼくは……」いっしょうけんめい、なんどもなんどもいいながら、お父さんとお母さんのいる部屋へ、冷たく長い廊下をはだしで歩いた。とっても寒い日のことでね、足のうらはじんじんして何も感じない、だんだん頭もぼうっとしてくる。

ぼくはカンナに選ばれたとくべつなこどもなんだ。

気づくと、目の前にはかたくなったお父さんとお母さんがいた。眠っているみたいにも見えるけど、目はぱっちりとひらいていてね。カカシは左のポケットから携帯電話をとりだして、お父さんとお母さんのすがたをカメラで撮った。
それは、カカシ十二才の誕生日のこと。
窓からひとすじさしこんでいた光がとつぜんぐんぐんつよくなる、これはたまらない、と目を閉じようとした、そのとき、
カカシのあたまのなかで、なにかがパチンとつぶれる音がした。

光がおおきな手のようなかたちになってカカシをつつみこもうとしているのが、最後に見えた。
















                                                   Ⅱ
 

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